翻訳者とよいチームを組むために
「翻訳」も「通訳」も情報をある言語から別の言語に置きかえる点は同じですが、「翻訳」では書き言葉を、「通訳」では話し言葉を扱います。この2つは別の技能です(ただし英語では両者を総称して"translation"という言葉を使う場合がありますので、注意が必要です)。仕事を依頼する際には、誤解を防ぐためにも、どちらが必要なのか最初にはっきりとご指定ください。
最終的な文書の質を考えるなら、単に2つの言語に通じているというのではなく、専門家としての技能を持った翻訳者を雇うことが肝心です。
翻訳は、辞書で見つけた単語を文法にしたがって並びかえるだけの機械的な作業ではありません。異なる言語の間では、単語が1対1で対応しない場合がよくあります。例を挙げるなら、ある単語がもう一方の言語では違う感情の動きを示唆することもありえます。このような潜在的な問題に注意を向け、その対処の仕方も知っているのが、プロフェッショナルな翻訳者です。
すぐれた翻訳の代表的な条件としては、表現が正確かつ明瞭で、論理が通っていることが挙げられます。加えて、言葉の調子やレベルがフォーマル度・専門性に見合ったものでなければなりません。納期に間に合うことも肝心です。しかし何より大事なのは、求められる機能を訳文が果たすかどうかです。法廷で使われる翻訳の場合、ぎごちない箇所が多少あっても正確性が最優先されるべきです。一方出版用の文章では流れのよさが命です。翻訳を依頼する際には、ニーズは何か、訳文が何に、また誰のために使われるのか、さらにどのような仕上げを期待しているのかを、翻訳者に知らせてください。ちょっとしたことですが、これで余計な出費とご不満がかなり防げます。すぐれた訳文確保の一助ともなります。
2つの言語の両方で等しくすぐれた訳文が書ける翻訳者はめったにいません。これは、たとえその人が両言語をよどみなく話せる場合でも言えます。文法的に正しく、表現力も十分なよい文章を書くには特別な技能が必要で、その言語に対して会話力以上の習熟が求められます。一般に、自分の母語に訳している翻訳者の方が、文法上の誤りが少なく、目標言語・市場に適した文体の訳文を提供できる可能性が高いと言えます。中でも第一線の翻訳者は、原稿を母語同様に読みこなすものです。逆に、母語から訳している翻訳者は、原稿の読み間違いが少ない一方、文法上の誤りを冒す可能性が高く、また訳文を作る上で構文および文体の種類が限られがちです。しかしこれにも例外はあり、母語ではない言語ですぐれた文章を書く人もいれば、母語で書かれた原稿に取り組んでいても読み間違いはときに起こります。加えて、分野によっては、目標言語を母語とし、内容を理解するのに必要な専門知識を持つすぐれた翻訳者を見つけるのが文字通り不可能な場合もあります。
翻訳の料金の高さに驚く依頼者がたまにいます。ここで思い出していただきたいのは、優秀な翻訳者は単に2つの言語に通じているだけでなく、金融や法律、各科学技術分野など、特定の領域にしばしば専門的な知識を持つ、高度に経験を積んだ専門家であるという点です。翻訳者は一定の分野を専門にしている場合が多く、その分野の読書に長時間費やし、さらに深い知識の獲得に努めています。翻訳の訓練を高等教育レベル、しばしば大学院レベルで受けている場合もあります。翻訳の作業はきわめて入り組んでおり、知力を使うという意味でもまたかかる時間の上でも労力を要します。つまり技能や知識、受けた訓練に見合った水準の報酬が翻訳者に支払われる必要がある、ということです。翻訳者の条件を満たさない人に発注し節約しようとしても、誰か別の人に修正を依頼することになれば、長期的に見てコストおよび時間が余計にかかります。料金が安いと高品質な翻訳を作ろうとする翻訳者の意気がくじかれがちです。
翻訳者は通常、原文の長さまたは訳文の長さを元に料金を請求します。料金計算の単位は翻訳者により異なります。(1語、100語、1,000語、文字数、バイト数、行数、ページ数など。所要時間による支払いや一括請求、または印税による場合もあります。)したがって、まず最初に翻訳者に確認するとよいでしょう。
翻訳のレートは内容・専門性・納期・各国の市場、さらにどちらの言語からどちらの言語への翻訳かにより変わってくるので、相場というものはありません。日本での日本語から英語への翻訳の場合、ページ単価でだいたい3,000円から10,000円強です。英語から日本語の場合、出来高400字あたり2,000円前後から5,000円程度です。単価と品質は概ね比例します−−ことわざに「安物買いの銭失い」とある通りです。
短い仕事については1件あたりの最低限度額が適用されたり、急ぎの仕事や週末または祝日にかかる仕事に関しては割増料金が適用される場合があります。長時間の調査を要する仕事、また体裁が複雑で仕上げに時間がかかる仕事の場合、単価はときおり時間単位になります。料金の見積りは無料ですが、その際翻訳者が全体の原稿、または見本として最低2、3ページに目を通せるように計らってください。
翻訳には、文章を単に入力するよりずっと長い時間が必要です。納期を決める要素としては、文書の長さ、難度(専門用語の数、内容の入り組み具合、調査の要・不要、原文を編集する必要があるかどうか、など)、翻訳者の能力およびその分野に対する専門知識、その時点でかかかえている仕事量があります。このことをふまえた上できわめて大雑把な目安を出すなら、1日10ページが無理のない線です。特定の分野の仕事だけをしている翻訳者なら数値はこれより大きくなるでしょうし、専門性の高い文書の場合かかる時間が長くなります。不明点の解決や必要な調査、草稿の見直し・修正、さらに条件にしたがい文書の体裁を整えるのにかかる時間にもご配慮ください。また、急ぎの仕事は料金が割増になる旨了解をお願いします(25%から100%)。
一語一句対応させた逐語訳では意味やニュアンスが原文からずれがちです。文字通り変な文章になったり、また意味の通らない文章になる可能性もあります。そこで翻訳者は、原文の意図をよりよく伝えるために、文章をある程度自由に起こす場合があります。さらに、言語はその言語が使われている文化を投影するものであり、例えば、日本社会ではそれで通る言い回しも、そのまま英語にすると不適切に聞こえる可能性があります。そこで翻訳者は、訳文の効果を高めるため、原文の一部割愛または補足、あるいは全体の書き直しなど、場合により手直しを加えたり、原文の変更を提案することがあります(自由な処理がどの程度まで許されるのか、依頼者から指示があってしかるべきところです)。最終的な判断は顧客である貴社・貴団体次第ですが、両方の文化に通じた翻訳者の助言は、言語・文化の違いによる誤解を防ぐために参考になるでしょう。
訳文の言語が母語ではない翻訳者に発注する場合、特にその翻訳が外部に発表するためのものであるときは、できあがってきたものをその言語を母語とする人にチェックしてもらうか、あるいは翻訳者に対し納品に先立ち訳文のチェックをその言語を母語とする人に依頼するよう要求することをお勧めします(通常その分を含めた料金の見積りが可能です)。誤りのない、簡潔・明解な、流れのよい文章の確保に役立ちます。
訳文を母語とする翻訳者に頼んだ場合でも、その翻訳者の信頼性および能力がはっきりしない場合、信頼性・文体・用語のチェックを別の人に依頼する方がよい場合もあります。チェックは必ず経験豊かな翻訳者または編集者に依頼し、その際翻訳者に与えたのと同じ情報を提供するようにしてください。2つの言語を流暢に話せても、プロの翻訳者の仕事をチェックする能力を持っていることにはなりません。このような人にチェックを頼むと、不要な修正を招いたりさらに悪い文章になる可能性があります。
現実には、翻訳が納品されても、依頼者がそのチェックに時間を割けない場合もあります。したがって、最初から優秀な翻訳者に依頼し、長い時間をかけて信頼関係を築くことが、なおいっそう重要となります。また翻訳者に、そのまま外部発表用として使える翻訳が必要なのか、あるいはチェック・編集にまず回されるのか、あらかじめ伝えておくべきでしょう。
法律上の要請があれば、翻訳者は、その知識が及ぶ限りにおいて訳文が原文に忠実かつ正確であるとうたった公正証書を提出できます。
翻訳者を選ぶ材料としては、関連資格、経験、適切な情報源を備えているかどうか、発注に応じられるかどうか、さらに料金があります。また、翻訳者が顧客の母語を話す場合、円滑なコミュニケーションが計れます。専門用語や知識が必要な仕事の場合、少なくとも関連分野の文書を訳した経験を持つ翻訳者を捜すようにしてください。翻訳者を雇う際、どこかを仲介するより直接取引したほうが、費用が安く済んだり、また直に会話ができ相談内容が翻訳過程にきちんと反映されるなど、様々な面で有利です。翻訳が定期的に発生する場合、社内翻訳者を雇いいれるのも選択肢のひとつです。
職業別電話あやその他の名簿に多くの翻訳者が名前を載せていますが、それぞれの資格や言語運用力、専門知識を確認することが大切です。
文書によっては、翻訳会社に頼んだほうがよい場合があります。翻訳会社は、翻訳の周辺に存在する諸々のサービスや品質管理を提供するとともに、図版の版下を作成する設備を備えていたり、ページ数がきわめて多い文書や、納期の短い仕事、またこみいった、あるいは特殊な内容の翻訳を処理する能力を持っています。翻訳会社のほとんどはフリーランス翻訳者および社内翻訳者を両方使っているので、それぞれについて資格や経験を問いあわせるとよいでしょう。また、翻訳に付加価値を与える他のサービス、例えば、編集や校正、DTPについても問いあわせてみてください。ただし翻訳会社は翻訳者に支払う料金にマージンを上乗せした金額を請求するので、翻訳者と直接取引するよりは高めになります。
フリーランスの翻訳者でも翻訳会社でも、一度優秀な翻訳者を見つけたら、同じ翻訳者を一貫して使うようにするとよいでしょう。貴社の文書の内容や、指定用語・文体・書式に慣れ親しむにつれ、翻訳の質がさらに向上します。また、高品質な翻訳を確保するには、その仕事の関係者全員が綿密に連絡を取りあうのが肝心です。
翻訳の仕事は、計画だった、準備周到なものであるほど、また発注者が協力的であるほど、よい結果を生むものです。下にそのためのヒントを掲載します。どれもそれほど時間や手間のかかるものではありませんが、余計な出費とご不満を防ぐ手だてになります。
1. 仕事を発注する前
2. 翻訳者に提供してほしい情報
3. 締め切りと支払い方法