エアラインの英語

田村忠彦(Tamura Tadahiko)

2月の例会の講演者、田村忠彦(たむら ただひこ)氏は、大学卒業後、旅行社勤務を経て1966年キャセイパシフィック航空(本社香港)の日本支社に入社されました。空港、旅客営業、貨物マーケティング、海外駐在員(西豪州パース市)など様々のエアライン業務を経験し、1983年に人事部長。1998年5月、早期退職制度に応募して退社。現在、航空関係の翻訳と企業研修のコンサルティングを行なっておられます。著書「エアライニーズ」(オフス・アドマール)、訳書「現代オーストラリア短編小説集」(共訳)(評論社)。

キャセイパシフィック航空会社

 私の勤務しておりましたキャセイパシフィック航空(Cathay Pacific Airways Ltd)は香港に本社のある英国系の航空会社で、1946年に設立されました。中国語では「国泰航空公司」ですが、その意味については会社のパンフレットにこう記されています。

‘These characters are the Chinese name for Cathay Pacific Airways. Literally translated, the first two mean “a country prosperous through peace”, and the character meaning “peaceful and prosperous” has propitious connotations in Chinese.’

 これらの漢字はキャセイパシフィック航空の中国語での表示である。文字通りの意味は「平和によって繁栄する国」であり、「平和と繁栄」を表わす「泰」には幸運の意味合いがある。また、Cathayというのは古い中国を表わす言葉ですが、それについても同パンフレットには以下のように説明されています。

‘The word Cathay is derived from Khitai, the name for the kingdom of Kithan Tatars (10th and 11th century) which included Manchuria and part of North China. In Central Asia and Russia, the word Khitai or Kutau is still used as the name for China.’

 「キャセイ」という言葉は、10世紀から11世紀に満州および北方中国を含む地域にあったキタン・タタール王国から来たものである。現在でも、中央アジアやロシアでは中国を表わす語としてキタイ、あるいはクタウが用いられている。

 なお、英国の植民地であった香港は1997年に中国へ返還されましたが、その際に英国と中国が締結した「香港返還協定」(Joint Declaration)には航空行政に関して次のように記されており、キャセイパシフィック航空の運航権が位置づけられました。

‘(The Joint Declaration - Section IX of Annex I)

The Hong Kong Special Administrative Region shall maintain the status of Hong Kong as centre of international and regional aviation. Airlines incorporated and having their principal place of business in Hong Kong and civil aviation related business may continue to operate.’

 香港特別行政区は国際的および地域的な航空業務の中心としての香港の地位を維持する。香港で法人として設立され、経営の本拠地が香港にある航空会社、および民間航空関連の企業は引き続き操業を許容される。

エアラインの用語

 航空会社で使われる用語には記号や略号が多く、また独特の言い回しがあります。例えば、予約部で使われる、2文字、3文字、4文字のコードには以下のようなものがあります。

Two-letter codes

    NN (Need Action アクションが必要)

    HK (Hold Confirm 座席が確保されている)

Three-letter codes

    CIP (Commercially Important Passenger 営業的に大切な顧客)

    OSI (Other Services Information 他に必要なサービスについての情報)

    SSR (Special Service Request 特別の手配を必要とするサービス)

Four-letter codes

    ADNO (Advise if not OK 了解でなければ連絡されたし)

    ARNK (Arrival unknown 到着の詳細は不明)

    DAPO (Do all possible 出来ることは全て要請する)

 飛行機は自由に空を飛んでいるようですが、路線や便数などについて国家間で協定が結ばれており、シカゴ条約(1944年)に基づく「5つの自由」(Five Freedoms of the Air)と呼ばれていますた。例えば、他国の領空を飛ぶ権利、旅客や貨物を運送して他国で離着陸する権利など、5段階に分かれています。よく航空交渉で耳にする「以遠権」というは第3国間を運航する第5の自由(Fifth Freedom)のことです。なお、国内線については原則的に自国の権利として守られ、カボタージュ(Cabotage)と呼ばれます。

 ところで、日本では客室乗務員のことをスチュワーデスと言いますが、最近は男女を区別するstewardessやstewardといった言葉は使われなくなりました。現在は、cabin crewやflight attendantなどが一般的です。米国の小説でも60年代のものにはstewardessが使われていますが、90年代になるとflight attendantが使われています。

<客室乗務員に関する英語と訳例>

‘He was joined shortly by a stewardess, who smiled and made fast the door.’

(Runway Zero-Eight, Arthur Hailey and John Castle, 1959)

「機内でスチュワーデスが出迎えた。彼女はにっこり笑い、ドアをしっかり閉じた。」

‘There were two stewardesses, at the moment, in the tourist cabin.’

(Airport, Arthur Hailey, 1968)

「その時、ツーリスト・クラスの客室には2人のスチュワーデスがいた。」

‘It was one of the flight attendants, a twenty-year-old woman named Kay Liang.’

(Airframe, Michael Crichton, 1996)

「そこにいたのはフライト・アテンダントの一人で、ケイ・リャングという名の28才の女性だった。」

‘Southwest flight attendants make flying fun with comical PA announcements and pre-flight tricks like popping out of overhead bins.’

(NUTS!, Kevin Freiberg, Jackie Freiberg, 1996)

「サウスウエスト航空の客室乗務員は、コミカルな機内放送をしたり、客室上部の荷物入れからいきなり顔を出してびっくりさせるなど、多種多様な仕掛けで乗客を楽しませる。」

ソフトスキル(Soft Skills)

 ソフトスキルとは、ハードスキル、つまりコンピュータ操作や事務処理などの業務にかかわスキルと対照をなすもので、「心よりのもてなし」を意味します。笑顔を絶やさないとか、機転をきかせる、お客様と積極的に関わる、などの「定義づけが難しく、計量できない」スキルです。今では、どこの航空会社も同じ機材を使い、同じような機内サービスを提供していますので、この「ソフトスキル」の違いは競争力を生む大切な要素になります。キャセイパシフィック航空では、Arriving in better shape という標語で表わしていましたが、これは「着き心地さわやか」と訳されました。今は、Service Straight from the Heart (SSFTH)「真心からのサービス」が使われています。ソフト・スキルについて社内研修で使ったビデオの中に以下のようなキイ・ワードが幾つか出てきます。

‘SSFTH should be spontaneous.’

 「SSFTHは機転をきかすことです。」

‘It should be culturally-sensitive.’

 「お客様がどこの国から来られてもきめ細かな対応が必要です。」

‘Our service needs to be more interactive.’

 「大切なのは、もっと積極的にお客様と接することです。」

かって英国航空がおこなった調査では、

1. Only 4% of unhappy customers complain.

 不快な体験をした顧客で、実際に文句をつけるのは僅か4%である。

2. One unhappy customer tells nine or ten friends.

 不満を感じた顧客は、自分の体験を9~10人の知り合いに話す。

3. It takes 12 good examples to make up for one bad experience.

 顧客が体験した不快な思いを消し去るには、12回の良い体験が必要である。

という結果が出ており、ソフトスキルはサービスの提供のみでなく、トラブルが生じた場合の処理を適切におこなうサービス・リカバリー(Service Recovery)の面でも大切なスキルです。ところで、航空業界で使われる次のような言葉があります。

‘Fly long-haul for show and short-haul for dough.’

 ここでshowと韻をふんでいるdoughは「パン生地」から転じた「金銭」のことですが、航空会社にとって長距離便の運航はコストのかかる割にはキロあたりの運賃収入が低いので見かけ程には儲からず、むしろ短距離便の方が割りがよいという意味です。

質問と意見

<質問>客室乗務員を、hostessと表記している航空会社があるが、これは一般的な言い方か。

<講演者意見>前述のように、キャセイパシフィック航空ではcabin crewと言っています。その他、cabin attendant、flight attendantという言葉がありますが、hostessはあまり一般的な言い方ではありません。

<質問>「心よりのもてなし」という考え方は、翻訳者にとってどういった点を教訓にできるか。

<講演者意見>あえて、特別なことをする必要はないと思います。納期や条件といったビジネスの基本を守ることや、必要に応じてクライアントとしっかり連絡をとる、ということではないでしょうか。

<聴衆意見>よいクライアントに対しては、心よりのもてなしをし、よくないクライアントに対しては、いいかげんなもてなしでいいでしょう。

<聴衆意見>クライアントにサービスしすぎるとクライアントはつけあがります。翻訳者とクライアントは、極端にいえば敵対関係にあり、よいクライアントとは、当方を儲けさせてくれるクライアントです。翻訳の研究会や会議で、しばしば、「顧客の教育」といったテーマでディスカッションされる場合がありますが、こういったテーマ自体がナンセンスです。当方の条件にあわないクライアントとは、取引関係を切ればそれで済む話です。

以上