50 歳を目の前に専業翻訳者になって感じたこと

私が専業翻訳者になったのはごく最近だ。専業翻訳者になって感じたこは、翻訳は楽しいけれども辛いことも多いということだ。月並みな言葉でまるで小学生の作文だ。しかし心からそう感じている。

新卒後、勤めていたメーカーの仕事の一環で、翻訳には 20 年以上携わってきた。
事業拡大途上の日本企業の海外部門に所属していたのでありとあらゆる文書の翻訳を手がけてきた。シリコンバレーの企業との共同開発を経験し、その後、海外駐在をした。商品開発プロセスで必要な文書の殆ど全てを、設計図やコード以外、日本語、英語の両方で作成し、日英、英日の翻訳をしてきた。

専業翻訳者になってはどうだろうかと思い立ったのはリーマンショック後に職を失った 2009 年だった。再就職がうまくいかず、思いついたのが翻訳だった。必死でネットを駆使して翻訳者になるために情報収集をした。そして、今もお付き合いのある翻訳会社から初めてお仕事をもらえることになった。その頃は専業者になろうとは思っていなかったので、再就職が決まった後は、週末翻訳者を続けながら細々とおこづかいを稼いできた。

今回、専業者になったきっかけは、仕事先の日本での事業収束だ。会社生活が丁度、累計 25 年になった昨年 11 月の節目に退職した。そして、在宅で納期に追われる今の生活が始まった。翻訳はもともと好きだったし、文章を書くのは下手の横好きで、小説も書いてきた。しかし、専業者になると、単発的なプロジェクトが多いので、MBAホルダーとして得意な分野ばかりやる訳にはいかない。手がけるジャンルを広げないといけなくなった。そうなると一気に不得意な分野が増えて辛くなる。そして、何よりも辛いのは仕事量の波。

そんな中で一番楽しんでいるのは組織行動学の分野だ。マーケティングではコトラー、ケラーの定番本が出ているが、組織行動学の分野はそういったまとまったリソースがない。意訳に幅をきかせないと文化的な側面が強くて、本当の意味が通じない。英語でMBAの教育を受けたので、日本語で細かいニュアンスを含めて伝えるために、改めて日本語で同じ内容を勉強している。そのプロセスがとても楽しい。将来は一冊本を手掛けてみたい。しかし、今の様に単発的に仕事が入ると、調べる時間の割には収入が少ない。翻訳は楽しいけれども辛いことも多い。50 歳を目の前に新しいキャリアを歩み出し、つくづく感じている今日この頃だ。

吉田直子 (よしだ なおこ)

出典: 翻訳者の目線 2013