丸岡英明(中日・英日・日英翻訳者)

2013年1月12日に、東京月例セミナーとして、「グローバル化からグローカル化へ~多言語翻訳の現状と今後の動向」と題した座談会が行われました。今回のパネリストは、日本語、英語の他に、さらにもう1つの言語(スペイン語、ドイツ語、中国語)の間での翻訳を行なっている姫野幸司さん(スペイン語)、楠カトリンさん(ドイツ語)、孫璐さん(中国語)の3人です。この3人の翻訳者によって、多言語翻訳のおかれている現状について意見が交わされ、グローバル化が進む翻訳業界の今後について、幅広いディスカッションが行われました。

会場には、日英、英日を含む様々な言語の翻訳者・通訳者が集まり、会場での参加者数は68名でした。前半には、JATのウェブサイトで会員限定でライブ配信が行われ、海外の視聴者を含む18人の会員がリモートで参加しました。合計で、86人の参加者となります。前半については、ビデオ録画が行われましたので、JAT会員はJATウェブサイトで前半の内容を見ることができます。後半は、録画・配信なしで、会場の参加者も含めたディスカッションが行われました。

今回、英語以外の言語に焦点を当てたセッションが行われた背景として、JATには他言語の翻訳者が少なからずおり、東京月例セミナーにも他言語の翻訳者の参加が多くあるのにもかかわらず、日英・英日以外の言語の翻訳に関するセミナーはほとんど行われていないという事情がありました。

前半は、姫野さんの「ベサメ・ムーチョ」で幕を開け、3人のパネリストによる、スペイン語、中国語、ドイツ語の翻訳の状況についての短いプレゼンテーションでスタートしました。どの言語も、リーマン・ショックや震災によって大きな影響を受けており、マーケットの状況は日英・英日に類似しているようです。スペイン語は、以前は英語よりも高いレートで推移していたのが、2008年以降は、特に入札案件において値段が大幅に下がっており、英語よりも安いようなケースが多くなってきているようです。中国語については、昨年9月以降、日→中の依頼が激減するなど、カントリーリスクも存在するという見解が出されました。ドイツ語については、特に通訳において、クライアントの英語のレベルが、日本人、ドイツ人ともに上がっており、以前は独日の通訳を必要とした会議でも、英語で直接行われることが増えているそうです。また、英語以外の言語においても、優秀な日本語学習者が増えている中、ターゲット言語となる母語の表現力を強化することの重要性が強調されました。

さらに英語での調査能力が他言語翻訳者の付加価値となるという意見も出されました。英語以外の言語に共通する点として、リソースの少なさがあります。オンライン辞書はあっても、CD-ROMの辞書のようなものは存在せず、専門分野の用語を網羅した辞書もほとんどなく、インターネットでリサーチするしかないという状況は、どの言語でも同じであるようです。しかも、専門的な用語の場合には、英語を介さなければなかなか調べることができないため、英語の知識も必要となります。

英語に関しては、どの言語でも、日本語でのカタカナ語(外来語)と同様に、訳さずに英語の単語をそのまま使うことが増えてきているそうです。とは言っても、同じスペイン語でも、アメリカとの密接度によって英語の受け入れ度合いが異なり、国によって用語が全く違うこともあるそうで、同じ中国語でも、台湾と中国で同様の現象があります。ドイツ語では、英語の動詞をそのままドイツ語の文法に合わせて活用させるようなことも起こっているそうです。

これらの内容を踏まえ、後半は、会場の参加者も含めた幅広いディスカッションが行われました。

まず第一に、こうした厳しい状況が続く中、他言語翻訳者の今後の活路について議論が交わされました。

さらに、機械翻訳を翻訳の作業に活用できるのかについて議論が行われました。3人とも機械翻訳を下訳として使うということは行っていないそうですが、うち2人はCATツールは活用しているそうです。機械翻訳は、英語ネイティブ以外が書いた意味不明な英語を解読する際に参考にしたり、重訳の繰り返しで内容が理解できない文章になってしまった文章を理解するために、大元の言語の原文を探し出して英語に機械翻訳するなど、機械翻訳も使い方によって翻訳に役に立つ場合があるという意見も出されました。例えば独英などでは、意味を理解することが目的なのであれば、機械翻訳はかなり使えるのではないかとのことです。

この他にも、通訳の仕事との両立、コンサルティングなどの業務も行い、翻訳プラス何かという形で、付加価値を高めていくべきかといったことについても、様々な意見が交わされました。「通訳と翻訳の両立は可能か」との質問に対しては、全員が絶対に通訳もやったほうがいいとの意見でした。机上でじっくり調べて身に着けた語彙も大切ですが、翻訳だけをやっていると生の言葉に触れる機会が限られてしまい、また現場で耳で覚えた言い回しのほうが自分の言葉として残るとの意見が出ました。さらに、特定の国に関する深い知識を有していれば、コンサルティング業務も可能ではないかとの意見が出されました。3人に共通していたのは、日英・英日翻訳と、他言語の翻訳・通訳の業務を組み合わせることにより、リスクをヘッジすることが可能であるという点です。

最後に、今後もネットワーク作りを強化していくことへの提言が行われ、会場の参加者からも、これからもこうしたイベントを続けてほしいという意見が多く出されました。

この会合をきっかけに、さらに内容を掘り下げた議論を行い、言語別のセミナーや勉強会などを開催し、ネットワーキングの機会を創造していくことの必要性を強く感じました。

 

JAT会員の方は、こちらから前半のビデオとスライドをご覧いただけます。

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