2023年10月15日(日)に京都で「JATPHARMA 2023年秋 関西セミナー」が開催されました。JATPHARMAはJAT分野別分科会の一つの製薬翻訳分科会で、医学や薬学関連の英日、日英翻訳者の集まりです。

会場は京都駅から歩いてすぐのキャンパスプラザ京都内、大学コンソーシアム京都。参加者は約20名で、関西からだけでなく東日本や西日本の各地から集まり、泊まりがけでの出席者もいました。

プログラムは4部構成です。

1. 免疫の仕組みと抗体医薬(名川文清氏)

近年開発が加速している抗体医薬について、90分の講義がありました。まず、基本知識として「免疫の基本的な仕組み」からはじまり、私たちの体がどのように外敵から守られているかを学びました。次に「抗体の構造と機能」について免疫グロブリンや遺伝子との関係をご解説いただきました。最後に「抗体医薬」がどのように自己免疫疾患、アレルギー、癌などの治療に役立っているかを知りました。研究の歴史から最新の治療法、勉強に役立つ参考資料まで紹介がありました。スライド発表後はもちろんのこと、発表の途中にも参加者から随時質問があり、スライド内容についてだけでなく、普段から気になっていた疑問にもご回答をいただきました。

2. インフレに負けない! 翻訳価格アップの方法(山本隆之氏)

フリーランス翻訳者にとって常に重要な単価について、40分の発表がありました。ご自身の体験の共有後、収入を上げるためには何をすべきかをはっきりとご紹介いただきました。具体的には、①既存の取引先に値上げを交渉する、②レートの高い会社のトライアルを受ける、③直取引をする、④海外取引をする、について実際にどのように実施したか、どれくらいの時間がかかったか等についてお話しいただきました。誰もが気になるお金の話ということで、こちらも活発な質疑応答が行われました。

3.  メディカル分野における英訳ポストエディットの方法(山本隆之氏)

ここからはワークショップです。まず、ポストエディットの長所と短所に加え、一般的に英訳をするときの注意点をご解説いただきました。その後、和文と機械翻訳された英訳が提示され、参加者がポストエディットを体験しました。自身のスマートフォンやタブレット、PC等を使って修正文を入力すると全体スクリーンに表示されるシステムが使用されました。自分がPEした文章は匿名で全体に開示され、羞恥心なく、自分の訳文と他の参加者の訳文を比較する機会となりました。ポストエディットをすると翻訳が下手になるおそれに対し、まず、原文だけを見て頭の中で訳文を考えてから機械翻訳文を見て、修正するという対策が紹介されました。

4.  Collaborative PTE-ing of drug safety text (Mr. Henry Smith)

こちらもワークショップ。まず、約600字の非臨床分野の日本語とその機械翻訳文が提示されました。これを参加者が修正します。参加者は5名程度のグループに分かれます。各グループに数文が割り当てられ、修正し、それぞれのグループが修正した文を最後に合体させて全体の修正訳が完成です。少人数で修正方法を話し合うことで、お互いの知識を交換することができました。修正後、それでは実際にこれがPE案件として依頼された場合はここまで修正するのかどうかという点など原文解釈、訳語選択、現実的な修正レベルなどについて活発な意見交換がありました。最後に英語ネイティブからの英訳のポイントがまとめられました。

以上のセッションの合間には参加者同士のネットワーキングがなされました。セミナー前日と当日の夜に懇親会が開催され、こちらでも翻訳者同士のつながりができました。

報告者は当日夜の懇親会に参加しました。セミナー参加者のほぼ半数が参加し、京都のおいしい創作和食を囲みながら、さらに交流を深めました。日中のセミナーの続きだけでなく、日々の体調管理や趣味の話、国内取引と海外取引の比較や、果ては日本と世界の経済についてまで、話題は最後まで尽きることがなく、大変盛り上がりました。

コロナ禍でオンライン上のイベントやセミナーが普通となっていたここ数年でしたので、久しぶりの対面セミナーは大変新鮮に感じました。特に質疑応答やグループワークは同じ場にいるからこそインスピレーションが湧くこともありました。実際に優れた質問や訳文を出している参加者が近くにいることで、自分はもっとがんばらなければならないと実感できた1日でした。

なお、本セミナーのアーカイブ動画は後日、JAT会員限定で公開予定です。関西でこの医薬グループがセミナーを実施するのは新大阪で実施された「JATPHARMA関西イベント2019」以来でしたが、今年6月には「第31回英日・日英翻訳国際会議(IJET-31)」が実施されました。そのときのJATPHARMAのアーカイブ動画は既にJAT会員限定で公開されています。ご興味があればぜひこちらもご覧ください。

A Deep Dive into Templates, Guidelines, and other Resources for Biomedical Translators (JATPHARMA)のアーカイブ動画

A Deep Dive into Templates, Guidelines, and other Resources for Biomedical Translators (JATPHARMA)の概要

今回のセミナーはJAT会員以外でも参加可能で、非会員でも十分に楽しめる内容になっていたと思います。ただし非会員は参加料が少し高くなりますし、会員になるとプロフィールを公開できますので取引先獲得につながることがあります。ご興味があればまずはセミナーにお越しいただくか、JATへの入会をご検討ください。

報告者:笠川 梢(Kozue Kasakawa)