Flashback to IJET-2

Panel Discussion on English-Japanese Translation (英日翻訳市場の現状、品質管理、翻訳のためのツール、翻訳の将来)

With just under ten weeks to go before IJET-30 in Cairns, this week we take a look back to IJET-2. The Second International Japanese-English Translation Conference was held in June 1991 in San Francisco. Many of the presentations were panel discussions, and we've chosen the report of a panel on English-Japanese Translation for you to enjoy.

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English-to-Japanese Translation

司会者兼パネリスト:安武優子(FACT International)

パネリスト:石川諭(Toin America)、早良哲夫(サイマル・インターナショナル)

まず安武氏が司会者兼パネリストとして、サイマル・インターナショナル翻訳部長早良氏、十印アメリカ副社長石川氏を紹介し、次の四つの議題について議論を進めるむね説明した。つまり、英日翻訳市場の現状、品質管理、翻訳のためのツール、翻訳の将来である。

市場の現状について、早良氏から次のように説明があった。実体は正直のところ良くわからない。しかし、JTF(日本翻訳連盟)の調査によると日本には約1,400の翻訳会社があり、各社に平均8名の職員がいると仮定すると、10,000人以上が翻訳を収入のもとにしていると思われる。出版年鑑で調べたところ、去年翻訳出版された本の冊数は約7,000である。そして翻訳需要は、少しづつ着実に増加している傾向にあると考えられる。その増加傾向は、日英翻訳の方が英日翻訳よりも著しい。しかしながら、このような増加にたいし良い翻訳者が非常に少ないのが問題となっている。

次に石川氏は、全体の市場は不明であるとしながら、十印の現状に触れ英日翻訳は翻訳部で、1985年の月2,000枚(400字詰め)から7,000〜8,000枚に急増していると説明した。発注先は、主として日本に進出している米国企業で、その内容は技術文献、調査レポート、契約書等である。しかし、そのほとんどが技術マニユアルで、その作成方法には、英語のわかるテクニカルライターがいきなり書く方法、下訳を情報として英文とは全く構成の違う和文を書く方法、和訳を行ないリライトを加える方法(この場合は基本的に英文と構成が同じ)がある。このうちどれを取るかは、スペックに基づいて決められる。翻訳者の選定はマニユアル制作のスペックに基づき、翻訳者の能力、与えられた時間、原文の質と量、報酬を考慮して行なわれる。翻訳者の訳文については、テクニカルライター、あるいは発注元の校正を必ず経ることにより品質の確保を計る。翻訳代金については、テクニカルリライトを前提とした下訳の場合400字詰め原稿用紙1枚当たり(ソース英文120〜140ワード)1000円〜2000円である。

安武氏は料金問題に触れ、この料金は北米に比べ低すぎるのではないかとの疑問を提起した。北米においては、日本語能力の全くない北米企業や個人がパンフレットなどの読者層の広い翻訳、日本語能力のある日本の現地企業は社内文書の翻訳依頼が多い。つまり、顧客チェックを必要とするものの方がフィードバックなしに直接使用されるところに問題があると指摘した。この品質の問題さえ解決すれば、北米の翻訳者は時差を利用することで有利な面があり、日本に市場を拡大することも可能であると述べた。

次に品質管理について、早良氏は英日翻訳の場合は「横書き」か「縦書き」かの使い分け、また「です調」か「である調」かの使い分けにも留意すべきであると述べた。また「翻訳者は、外国語から自分の母国語への翻訳に撤すべきだ」という議論については「必ずしもそうとばかりは言えない。それぞれ一長一短がある」と述べ、「英日の場合も日英の場合も、翻訳の過程のなかに、できるかぎり両方のネーティブ・スピーカーを入れるべきだ」と主張した。そして、しばしば<翻訳メモ>を添付して顧客の参考に供しているとの説明があった。

石川氏は十印では、技術翻訳が主であるためほとんど横書きが用いられていると述べた。品質管理については、スペックを必ず各翻訳作業ごとに作成し、ゼロディフェクトを目標にすべきであると説いた。

司会者から要請を受けて、早良氏は翻訳を受領してから顧客に渡すまでの過程について次のように説明した。インハウス、フリーランスを問わず、まず最適な翻訳者を選択することから始め、翻訳を受領したら、チェッカーが原文との食い違いをチェックし、エディターが日本語として自然なものに直す。この順序は逆な場合もある。それからWPオペレーターが仕上げる。専門的なものについては、途中で顧客にチェックする。それから<翻訳メモ>を付けて顧客に渡す。

安武氏は、編集機能の重要性を強調し、北米においてもネットワークを作って作品をチェックすることが必要ではないかと述べた。とくに自然な日本語を書くこと、片仮名表記に留意することの必要性を強調した。また北米においては、翻訳市場が小さいため専門化することが不可能で、これが品質の問題につながることを指摘した。また、手紙文等について単なる言葉の置き換えでなく、文化、習慣要素も加味した和訳が必要ではないかと問題を提起した。

翻訳ツールについては、石川氏から日刊工業新聞社発行、マグローヒルの「科学技術用語大辞典』、丸善発行の「電気、電子用語辞典」、IBMインフォメーション・プロセシング・ターム・グロサーリのボリューム4、日外発行の「ジャバニーズ・イングリッシュ・ディクショナリー・オブ・コンピューター」の推薦があった。早良氏は、一般翻訳用辞典リストを配付し、とくに片仮名表記に関し、政治家等の人名、地名には「世界年鑑」、「外国人名事典」、「外国地名事典」の有用性を説いた。また英日翻訳で、標準的な日本語の用法を和英辞典で探すのも一案であることを指摘した。

次に司会者の要請を受けて、十印の安藤氏は機械翻訳について次のように述べた。今後は、ソース・テキストが電子化された形で翻訳者に渡されるだろう。英文の原稿に、制御コードが入っており、内容の和訳が行なわれるとそのままの形で版下ができてしまう。この様な進歩につれ、機械翻訳を活用しようとする動きが強まるだろう。機械翻訳のスピードを利用し、編集段階、DTPを取り込んだ形で、近代化した翻訳というのが今後の方向性として考えられる。ただ問題は品質で、機械翻訳と人間翻訳の差異について検討が行なわれている。

翻訳の将来について、早良氏は次のように述べた。現在では、必要のない翻訳が随分なされているが、これは槻械翻訳によって改善されうる。機械がラフな翻訳を行ない、正確な翻訳を必要とする部分だけに人間が手を加える。しかし、機械翻訳が主役になるのは21世紀になってからだと思う。

安武氏は、将来は北米においては単純な翻訳から、コミュニケーション・コーディネーターとして、もっと顧客と積極的に関わっていくようになるだろうと見通しを述べた。そして、北米の翻訳者は一般的に年令は日本よりも高く、日本語教育もしっかり受けているので、将来は明るいと結んだ。

質疑応答

司会者:料金についてのジレンマについて早良さんと石川さんからお答えください。

早良:翻訳会社が取り過ぎではないかとの批判があるが、翻訳が終わった段階では、まだ30〜40%しか仕事は終わっていない。現にサイマルの翻訳部は赤字である。

石川:スペックを作りそれに基づいて、どこまで翻訳者が行なうのか話し合いのうえ、料金を設定することが望ましい。十印では調査によると全体の翻訳料の66%が取り分となっているが、翻訳部としては黒字にはなっていない。

安武:ラッシュの翻訳に対しては、特別料金を徴収している。

質問:英文和訳よりも和文英訳の方が、利益率が高い感じがするがどうか?

安武:料金は全く同じになっている。

早良:サイマルでは英日翻訳では、出来上がった日本語の原稿用紙400字詰めで、日英期訳では、オリジナルの日本語の原稿用紙で料金を設定している。日本では、日英の翻訳者が少ないこともあって日英の翻釈料金が多少高めになっているかも知れない。しかしその差は余り大きなものではないようだ。

石川:日本では日英の方が苦労が多い割に実入りが少ないのは事実。この原因は、需要供給の関係による。

質問:翻訳者が翻訳会社に翻訳を伝送する手段は手書きか、ディスクか、モデムか?また将来は?

石川:割合は不明であるが、ディスクで来るものがかなりあり、コスト低減のためには、将来は一層の電子化が必要。

早良:基本的には同じ。手書きはタイピストが読めない場合があるので避けるよう努力している。ファックスも使われているが、ディスクが増えている。将来は全部、電子メールなり、モデムにしようという方向に向かっている。

質問:十印の時間当たりのリライターの料金は?またサイマルのフルコースの意味は?

石川:リライターにも種々あり、数字はつかんでいない。

早良:顧客との交渉はすべてコーディネーターが窓口となる。また、翻訳者を選び、エディター、チェッカー、タイピストとも密接な連絡をもつ。専門用語については顧客にチェックし、出来上がったものは顧客に中間チェックをしてもらい、必要に応じ同じコースを繰り返す。その間に日本語、外国語両方のネーティブ・スピーカーを入れる。

質問:ラッシュ・チャージの標準はなにか?

安武:1日8時間労働、1時間最低2頁として計算、それを越えるものについては、最低20%を加算。

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