新年度最初で平成最後のTACセミナーでは、JATPATENTと共同で、ワシントン大学ロースクール・慶応大学ロースクール教授の竹中俊子先生をお招きして、「米国特許法および最近の判例から学ぶ、クレーム・明細書ドラフティングおよび翻訳テクニック」についてご講演いただきました。かなりボリュームのある資料をご準備いただき、3時間ずっと話し続けてくださった竹中先生に心より感謝申し上げます。
私たち翻訳者にとってはかなり難しい部分もあったのですが、セミナー中、随時質問を受けてくださり、また、講演後も個別に質問にお答えいただけたので、日頃の疑問を解消することができたのではないかと思います。
講演中、翻訳に関してたくさん質問が上がりました。いくつかご紹介します。
Q1. 講演の中で、「present invention」や「this invention」等の表現はやはり避けるべきというお話がありました(cf. Hill-Rom Servs. V. Stryker (Fed. Cir. 2014)等)が、原文に「本発明」と書いてある場合において、英訳時に「present disclosure」等と訳すことは問題ないでしょうか?
A1. 「本発明」と記載されている部分が明らかに一実施形態に関するものである場合には「present embodiment」等と訳しても大丈夫なケースもあるが、同一性の問題がある場合には「present invention」と訳さざるを得ないと考えます。
筆者コメント(あくまでも私見です): クライアントより、「本発明」は「present disclosure」と訳して欲しいと指示されている場合には、指示に従うべきだと思いますが、そうでない場合には、そのまま「present invention」と訳した方がよいかもしれません。
Q2. 講演の中で、米国クレームでは基本的にcomprisingを使うべきである旨の説明がありましたが、一番最初のtransitionではなく、より下位の各エレメントの説明の中で使われている「~を含む」等の用語についても、including等ではなくcomprisingを使うべきですか?
A2. はい。クレームでは、全てcomprisingを使うことをお勧めします。
Q3. クレームの記載をそのまま明細書の中にコピーペーストする場合も多いと思いますが、明細書へコピーする場合にはcomprisingをincluding等に修正した方がいいですか?
A3. 明細書の中でもcomprisingのままで問題はありません。
筆者コメント(Q2/Q3に関し): 私自身は、下位エレメントの説明ではcomprisingではなくincluding等を使っていましたし、明細書にクレーム記載をコピーペーストする際にはincluding等に修正していましたので、先生のお話を聞いて少しびっくりしました。ただ、交流会でお話しした方の中には、クレーム中やコピペ部分でも全てcomprisingを使うよう実際に指導されたことがある方もいらっしゃったので、大変勉強になりました。
また、「at least one of A and B (A及びBのうち少なくとも一方)」を”at least one of A and at least one of B”と解釈したSuperGuide判決後、解釈の変更があったかどうかを予め講師の先生に尋ねていましたが、講演の中で、いまだにこの解釈がUSPTOで踏襲されている旨の説明がありました(Ex parte Jung (PTAB(特許審判部), March 22, 2017))。このような和文をどう英訳するかは悩ましいところです。講演後に先生に個別にお尋ねしたところ、「マーカッシュ形式で訳すのが安心なのですけどね…」とおっしゃっていましたが、私たち翻訳者は勝手にそのような変更はできませんし…。今後の動向を見ていきたいところです。
JAT会員の皆様には、セミナーの動画と講演資料を後日公開させていただきます。いましばらくお待ちください。
竹中先生と、当日手伝ったTAC委員&Patent委員
(文責:平林 千春)