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英日部門には19人の応募がありました。今期のコンテストは日本翻訳者協会ウェブサイトの移転などの影響もあり、やや広報不足の感がありましたが、応募して下さった皆様には心からお礼を申し上げます。

応募者の数が予想以下だったため、一次審査は行われず、応募者19人すべてが二次審査に進みました。その中から以下の6人が最終選考に残りました(敬称略)。

No.21 吉澤陶子(よしざわ とうこ)
No.24 本橋智美(もとはし ともみ)
No.29 栗原朋之(くりはら ともゆき)
No.35 南佐洋子(みなみさ ひろこ)
No.38 増井俊雅(ますい としまさ)
No.61 添谷ラングあゆみ(そえや)

さらに最終審査の結果、入賞者が次のように決定しました。

第1位 No. 61 添谷ラングあゆみ(神奈川県川崎市)
第2位 No. 38 増井俊雅(京都府京都市)


選ばれた方も、惜しくも選外となられた方も、ぜひ原文とご自分の翻訳をもう一度見直して、翻訳力向上の一助にしていただければ幸いです。より詳しい講評は4月に沖縄で開催される日英・英日翻訳国際会議(IJET)で行なう予定です。

関根マイク
英日部門実行委員

■審査講評


小河原順子審査員


今回の課題文は、比較的読みやすい印象を受けたかもしれないが、翻訳の完成度を高めるためには、背景の事実調査も必要であるし、ニュース性、金融情報、ビジネス文書の各要素を加味した文体や表現の工夫、日本語としての完成度等が求められた。

翻訳者がきちんとした背景調査を行ったかどうかは、例えば、”merger of equals”を「対等合併」として訳せているか、”Chrysler”を何と訳しているかどうかである程度伺える。前者については、最終審査に残った6人中5人が訳せていることは良い。後者については、In the heat of summer 1997, Daimler Benz purchased Chrysler for 37 billion dollars in a reported business merger of equals. Now, not quite 10 years later DaimlerChrysler is selling Chrysler for a reported 7.4 billion dollars for 80% of the firm.の文章をみてみると、最初のChryslerと2番目のChryslerをまったく区別せず両方とも「クライスラー」とした応募者が2名、2番目のクライスラーを「クライスラー株」とした応募者が2名、2番目のChryslerを「クライスラー部門」と訳せていた応募者は2名のみであった。今回の課題文は、専門家向けのビジネス文書ではないが、事実を正確に記す慎重さが求められる。

読解力では、例えばIf the loss of 30 billion dollars in business value is not bad enough apparently the entire purchase price being paid by the buyer Cerberus will be placed into Chrysler and not retained by Daimler.の前半は、筆者の皮肉が含まれていることを感じ取らなければならないが、これをまったく文字通り訳してしまった応募者が2名いた。また、 Don't wait until even the "business challenged" can tell you must sell.の訳については、文意をまったく理解できていない応募者が3名、残りの3名は文意はまあまあ理解できているが、括弧をつける場所を間違えていたり、精度に欠けていた。ちなみに "business challenged" とは、「経営に無知な人間/疎い人間」といった意味である。また、In the name of efficiency Daimler didn't let Chrysler keep dancing the dance that got it to the ball.の訳についても苦労の跡が見られたが、ここは「舞踏会」などという表現を使うようでは不合格。この文章以前の情報からわかるように、クライスラー社がデザイン力で成功していたにもかかわらず、ダイムラー社はそのデザイン力を発揮させるチャンスを与えなかったという文意が読み取れなくてはならない。

日本語力という点では、Exciting new product lines were eagerly accepted by the market. の訳について全員が苦労していたようであるが、このような文章の場合、「熱烈な歓迎」「熱狂的に受け入れられた」などのドラマチックな表現は不自然である。「圧倒的な人気/支持」などと表現を工夫できるようになりたい。また、「Exciting new product lines」についても、冗長な表現が多く見られた。

応募翻訳を個々に見てみると、1位となった61番については、まだ誤訳も不自然な日本語もあるものの、最終審査に残った6名の中では、間違いの幅も少なめで工夫した表現もみられ(「300億ドルという事業価値の損失もさることながら」、「アメリカのアイコン的存在である、オフロード走行性を誇る、米国製4WD」、「主力であるジープ製品の価値もひどく傷つけてしまった」)、全体的に自然な仕上がりであったと言えるであろう。ただし、プロの翻訳者として通用するようになるには、「なぜこのような状況に繋がったのか」、「いつまでも変わらない車」、「どのような立ち位置に」、「お手軽な車」などの不自然かつ稚拙な表現は改めるようにしなければならないし、「財務活動によるキャッシュフロー」、「新車を販売しないことに何の意味があったのだろうか」、「競合としてようやく意識し始めたのは」といった誤訳はなくせるようにならなければならない。今後の更なる努力に期待したい。

他の5人については番号順にみていく。

21番は、全体的にこの業界に詳しくない者によって書かれた翻訳文であることがわかってしまう文体である。「対等合併」、「教訓」といった表現は良いが、タイトルの「売却価値を下げないために」や「失敗からわかること」の他、「報じられたのは1997年の真夏のことだった」といった冗長な表現や、「取り分となる見込みで、ダイムラーには何の実入りもないようだ」、「この出来事」、「カバー可能」などの原文の性格に適さない表現は改善の余地がある。また、「重要なのは、売却益ではなく、そのことが事業にもたらす利益である」という小見出しも、本文の内容と合っていないことに気づきたい。

24番は、最初から「購入」という不適切な表現が使用されている。こうした分野の内容に詳しくなくても、少しインターネットで検索を行えば、このような不適切なキーワードの訳をすることはないであろう。また、「記録的な売上高と28億ドルという純利益を打ち出していた」といった不自然な表現や「購入費用がまかなえただろう」といった歯切れの悪い表現、「成長する計画もなければ」といった意味不明な訳などが見られる。ただし「クライスラー部門の株式80%」といった表現は良かった。全般にわたる翻訳力の研鑽に努めてほしい。

29番は、「過剰生産設備」、「売却時期」といった表現は良いが、「対等な事業統合」、「他人の不幸を食い物にする輩」といった原文の性格に合わない表現が見られる他、「300億ドルの事業価値の損失はそれほど大きくないとしても」といった原文の理解力の欠如、「購入額の全額は、どうやらダイムラーのものにはならず、クライスラーに割り当てられるようだ」という冗長かつ原文を理解しきれていない訳、「事業の統合や売却をする際は、売上高ではなく営業利益」に見られる訳抜け、「舞踏会へと導いたダンスを」といった読解力の欠如がみられる。普段から英文に慣れ親しみ、メッセージを正確に読み取る力をつけたい。

35番は、努力して訳した様子が感じられ、調査力、文章力共に6人の中ではもっとも優れていると思われたが、原文にない情報の追加があったり、意訳しすぎている部分が多々見られる(「最悪の事態に見舞われることになる」、「今一度肝に銘じよう」、「売却時期の鋭い見極めが利益増のカギ」、「格下企業にすら売却に賛同されるようになればもう遅い」など)。翻訳者は、あくまでも原文を正確にターゲット言語で伝えなければならないという使命を忘れずに、翻訳技術を洗練させていってほしい。

38番は、比較的無難な訳に仕上がっていたが、タイトルの「崩壊」、「買収の埋め合わせ」といった不適格な表現、「300億ドルは深刻な損失ではないにしろ」といった原文の理解不足、「売りに売った」、「待ったなしの一時解雇」、「対等結婚」といった文書の性格に不適切な表現、「「企業が窮地にある」ために~日和見主義差に得をさせてしまうだろう」「ダイムラーが傲慢な配偶者であることがまもなく露見した」といった原文を無視した訳などが見られた。翻訳にあたる際には、原文を十分に読み込み、業界の文体にも慣れ親しむようにしたい。

佐藤綾子審査員


これまで3回コンテストの実行委員を務め、今回初めて審査を担当した佐藤です。「早く審査してくださいね」と言っていたのが逆の立場となり、審査の難しさを思い知らされました。

まず、コンテストに応募して下さった皆様に心からお礼を申し上げます。そして、最終審査に残った方々には拍手を送ります。大昔、私も何かのコンテストに応募したことがあるのですが(翻訳雑誌の翻訳クリニックだったかもしれません、記憶は定かではありません)、1次審査にも残りませんでした。それでもこの業界で何十年か生き延びております。ですから最終選考に残らなかったとしても、それほど気を落とさず、ファイナリストたちの文章を見比べ、講評を読み、今後に活かしてくださればと思います。翻訳においては「継続が力なり」ですから。

さて、課題文に「ビジネス」ものが登場したのは今回が初めてです。普段、日経新聞やビジネス・業界誌(紙)、あるいはビジネス関係のサイトやブログなどをあまり読んでいない方にはとっつきにくかったかもしれません。”Purchase” を”購入”(21番)に、あるいは”privately held business”を「私有企業」(29番)(「私有企業」は「国有企業」との対比で中国関連の文章に登場することが多い)としたのは、慣れていなかった例でしょう。まずはGoogleで検索したり(クライスラー、ダイムラー、サーベラスの3つの単語で検索するだけで、「買収」に関する記事などが数千件みつかります)、雑誌や新聞記事を探したりして、少なくとも数十ページ分をまず読み、雰囲気をつかまれることをお勧めします。

読解力に関するチェック項目のなかから2点挙げます。

”When Daimler purchased Chrysler a new design center had been completed allowing Chrysler to bring cars on the market in three years or less./ <その2パラグラフ後に出てくる>What happened to the design studio again? ” ここでは最初の a new design centerと次の the design studioが、同じものを指していると訳文からすぐわかるか?をみました。21番(デザインセンター・再び気になるのはデザインセンター)と61番(新しいデザイン拠点 / 先ほどのデザイン拠点)が訳語を統一させていましたが、他の方々は、24番(設計センター・設計所)、29番(デザイン・センター/ デザインスタジオ)、35番(新デザインセンター/前述のデザインスタジオ)、38番(設計センター/ 設計部門)と表現が異なっていました。英語では最初が“…a design center” 次が “…the design studio again”と theがつくので同じものだとすぐわかりますが、“center“ と“studio“を直訳すると「あれ、これって何だっけ?」と前を読み返すために、読者が数秒ロスしてしまう可能性があります(ただし、自動車業界の人ならばすぐわかるかもしれません)。正確さや厳密さが要求される学術文書や法律文書ではありませんので、なるべくさらっと読める工夫が必要だと思います。

もう1点は 5パラブラフ目に登場する “affordable car style”で、訳文から「値段が安い・予算内」だとすぐわかるかどうかです。「手頃な」だけですと、日本語では「手頃なサイズ(大きさ)」などの言い方もありますので、ちょっと迷ってしまいます。

では各人の講評です。番号順に行きます。

21番は最初、私にとっての1位候補でした。"business challenged," “the ‘crossover’ or mix of SUV and Minivan”などで意味を取り違えたところや、ビジネス文書に慣れていないとすぐに分かる表現はあったものの、日本語としてとてもおかしな表現は見当たらなかったからです。しかし、全体的にみると、訳文が冗長で(一番短い人より400字程度多い)読みにくかったのが減点対象となりました。たとえば最初の文章「ダイムラー・ベンツが370億ドルでクライスラーを買収し、対等合併を行うことが報じられたのは1997年の真夏のことだった」では、1つの文章に「こと」を2回使わないようにする等、訳文を引き締める工夫を重ねればよいかと思います。

24番は、最初に引用した”purchase/購入”がこの分野に慣れていないと察せられる一例でしたが、不自然な文章の流れ(「…価格設定で重要となる。上昇サイクルで…」)、おかしな日本語表現(「活気に満ちた新製品ライン」、「成長する計画もなければ」、「報道が街に流れた時」、「有能な社員は大切な商売道具である」)も減点対象となりました。“Chrysler was a low cost provider”のところはよく解釈できていました。今後は、英語だけではなく、日本語の文章もたくさん読まれることをお奨めします。「言葉の誤用(誤用にご用心)」http://starscafe.net/kotoba/misuse/ などというサイトも役立つかもしれません。

29番は、“Now, in 2007, Chrysler has revenues of 62 billion dollars … with no projected growth and no current cash flow for financing.”の“cash flow for financing” の意味をうまくつかめていない人が多かったなかで、「資金調達のためのキャッシュ・フローもない」と訳せたのはよかったと思いますし、 “business challenged” も解釈できていました。しかし”In a merger originally billed as a marriage of equals…” の「当初は対等な連合と宣伝された統合」など不自然な表現や、”Compare that to the current industry weakness…” の「この状況を現在の業界の弱点と…報告を伴う弱点だ」というぎこちない訳などが減点対象となりました。

35番は、「意訳」コンテストでしたら1位となる可能性もありましたが、あくまでも、解釈をなるべく加えず、意訳もなるべくせず、それでもなおわかりやすく訳出するのが目的の「翻訳」コンテストでしたので、何か所か減点対象となりました。最初見落としたのですが(他の審査員の方から指摘されて気がつきました)、ドルを「円」としてしまったところもありました。あと日本語表現ではがんばったものの、原文の意味が取れていないところがかなり多かったです。”Jeep was very close to the Marlboro Man in American mystique”を「ジープはかのマルボロマンの車」としたのは、情景が目に浮かんでくるようではありますが、バツです。(ちなみに”Jeep”と “Marlboro”で画像検索をしたところ、なぜかMickey Rourke とDon Johnson主演のアクション映画”Harley Davidson and the Marlboro Man” のポスターが出てきました)。

38番はとてもよく訳せているところが何か所かあり、文章の流れもよくて、まずは上位進出を果たしました。しかし決定的な減点対象となったのは訳文の「利己的な日和見主義者」「傲慢な配偶者」、「待ったなしの一時解雇」という表現でした。あと細かい誤訳やちょっと訳し足りないところ(「未公開企業」、「企業が窮地にある」、「手頃なスタイル(前述の ”affordable”)や、文法的におかしいところ「クライスラーは…失墜した(失墜するのは「権威」や「信用」や「信頼」で、会社は失墜しない)」があり、1位を逃しました。

そして結局61番が1位となったわけですが、一番悩んだのは、「過剰整備(「設備」だと思われる)」、「医療や退職費用負担よる(「による」だと思われる)、「お手頃な車という座も失ってしまったのです(ここだけ「ですます」調になっている。また”affordable”も訳し足りていない)」などの、誤字・脱字・チェックし忘れをどの程度減点するかでした。また”in a reported business merger of equals”(「対等合併」と称して)、”Daimler, in 2007, finally brought out a Hummer competitor…“(ダイムラーが、ハマーを競合としてようやく意識し始めたのは…)など、かなりの減点対象となるところもありました。結局、プラス点とマイナス点を総合的に判断し、紙一重で1位としました。

過去のコンテスト入賞者の中には、入賞がきっかけとなって翻訳者としてデビューを果たした、あるいは活躍の場がさらに広がった方々もおられます。繰り返しになりますが「継続が力なり」です。皆様もよりよい翻訳をめざし、今後とも精進を続けられますよう。

石原ゆかり審査員


課題文は、一般紙の経済面が理解できれば、さほど高度な知識を要求される内容ではありません。「business」、「sell / buy (sales / purchase)」などを文脈に合わせて訳せるか、また、金額や固有名詞などを正確に表記できるか、などの点に注目していました。さらに、背景・文化知識が問われる比喩や皮肉表現が多いので、英語に引きずられずに日本語として正しく訳せるか、という点も重視しました。

この課題文を読んだとき、翻訳を学び始めた頃にこのような一般記事をいくつも課題に出されたことを思い出しました。表現が楽しく、「訳しがい」がありそうだと思っても、背景に関する理解が曖昧だと日本語表現が出てこず、下調べする、英英辞典を駆使する、英語ネイティブに聞く、など、勉強方法を身につけました。さらに、日本語訳として選んだ表現の意味が原文の意味と合っているか、はたまた、それが正しい日本語であるか、先生や同級生から逐一追求され、国語辞典や類語辞典で調べたものです。今では、これが翻訳の基礎訓練であったのだと、この時期を懐かしく思います。

自分の体験を長々と述べた理由は、最終選考に残った6作品、1位となった61番も含め、いずれも、このような基礎訓練が足りないのでは、と感じたからです。逆に言えば、このような基礎訓練こそがプロへの道を拓くカギとなります。以下、番号順に作品ごとのポイントを述べますので、今後の参考にしてください。

21番は、「余裕のなさは買い叩かれるもと」、「才能は事業の要、流出させることなかれ」など、個人的には気に入った表現もあったものの、文脈に即していない用語選択や「カバー可能」など、口語的と思われる表現がありました。「スタイリッシュ」という外来語は日本語として定着しているか、「アメリカの伝説」とはどういう意味なのか、など、もう少し突き詰めて考えてみてください。「Daimler didn't let Chrysler keep dancing the dance that got it to the ball」を「ダイムラーはクライスラーがヒットを産み出して来た従来のやり方を継続させようとしなかった」と訳し、意味はとらえているものの、「ヒットを産み出して来た」の部分が「超訳」となっている点に気をつけてください。残念なのは、文章が冗長的で読みづらいため、稚拙な印象を与えている点です。自分で声を出して読んでみる、人に読んでもらって聞くなどして文章を洗練させると、「英文和訳」から「翻訳」に脱皮できることでしょう。

24番も文章力に問題がありました。全体的に文体に一貫性がなく、「キャッシュフローを最大にすること。」、「間違いを避けること。」などと体言止めにしたのも、この場合では不完全な印象を受けます。「底値を狙った者たち」、「ハマーの競合モデル」など意味を理解していて上手に訳してある表現もありますが、「購入するキャッシュをもたらし」、「市場に車を出す」などの口語表現やその他の不自然な表現も見られました。「SUVとミニバンが重なり混在する時代」は誤訳です。

29番は、「ダイムラーがクライスラーを買収した当時は~」の段落など、原文をよく理解していると思われる部分はうまく訳されていますが、「人材こそ事業だ」、「アメリカの神秘性」、「対等な連合」、「デザインの速さ」(「設計の速さ」であれば意味が通じる)など、意味が不明か、あるいは不自然な表現があり、原文の理解不足が反映されていました。また、「クライスラーが死から再生したことに基づけば」は「基づく」の主語が不明で(直訳?)、主部との関係が成立しておらず、意味不明な文になっています。「競争相手に頼らざるを得なくさせたり」は誤訳です。読者は原文と読み比べるわけではないのですから、日本語の文章としてきちんと成り立っているか、正確に訳しているか、推敲時の確認を心がけてください。さらに、「分る」は「分かる」の表記の方が一般的でしょう。実務翻訳では送り仮名などの表記についても気を配る必要があるので、日頃から一般的な表記に親しむようにしてください。

35番は、文章がかなりこなれており、工夫して訳していると感じましたが、意訳が多く、原文にない補足もいくつか見られ、審査中、何度も原文に戻って確認する必要がありました。「…is not bad enough…」の構文を変えて「~最悪の自体に見舞われることになる」と「超訳」されていますが、素直に原文どおりの構文で訳しても良いのではないでしょうか。「アメリカの三大自動車メーカー(ゼネラル・モーターズ、フォードモーター、クライスラー)」に見られるような補足も、親切心からなのかもしれませんが、この文章の読者層は一般ビジネスマンなので不要でしょう。むしろ「ジープはかのマルボロマンの車」の部分の方が、今日の日本の読者間で一般的な知識であるか疑問なので(グーグル検索でもヒットは少ないですね)、あえて補足をするならここではないでしょうか。「人材の実力を発揮させることなく」、「トレンドから距離を置いた」などは誤訳と判断しました。「28億円」の単位間違えや「2006年まで」の部分で「three years prior to」が抜けている (意図的?) などのミスも残念です。

38番も、文章がかなりまとまっていて、「記録的な活況を」、大きな対価を払って得た人材を流出させてしまうのだろうか」、「買収側には朗報だが」など、感心させられる良い表現もいくつか見られたものの、「人材が企業」、「最後の痛手は」など、意味が不明な表現もあり、また、「クライスラーが魅力的に映っていたときのやり方」、「今回の出来事はどの様な経緯をたどったのか」などの誤訳がいくつかありました。さらに、最後のまとめの部分は、息切れされたのか、まとめなのに、うまく文章がまとまっていない印象を受けました。日本語の文章として読んだときに文意がきちんと伝わるかどうか、人に読んでもらうなどしてみてください。

61番は、脱字や誤訳、また「買収を目指すなら」、「デザインにおける~素早さを」、「キャッシュフローを~引き上げる」など、日本語として意味が成り立っていないと見られる表現や、「当時の経営陣は」など、人によっては「超訳」と判断する可能性がある訳が見られました。ただ、6作品の中で一番文章が自然であり、かつ、誤訳やその他のミスが少ない、または深刻度が低いことから1位となりました。原文に対して素直に訳してあり、意訳も他に比べて少なかったです。「飛ぶように売れていた」、「経営の分野の素人」、「ジープは、アメリカのアイコン的存在である「マルボロ・マン」を彷彿とさせる」などは良い訳だと思いました。

最後に、いずれの作品でも「affordable style」がきちんと訳されていないのが残念でした。平たく言えば「スタイルが良いのに、値段が手頃」という意味なのですが、「手頃に買える」、「手頃な車」など、「style」が抜けていたもの、「スタイリッシュカーブランド」のように「affordable」」が抜けているもの、「手頃なスタイル」、「手ごろに買えるスタイル」のように日本語としては誤っているもの、のいずれかでした。また、今回の減点対象にはしていませんが、実務翻訳のトライアルなどでは、見出しを原文どおりに太字にする、「SUV」など英文がある場合は原文と同じフォントにする、半角文字にする、また、スペース、タブ処理などを統一させるなど、翻訳以外の部分でも判断される場合もありますので注意してください。

実務翻訳の評価は減点制です。表現に凝るよりも、誤訳やミス、超訳がなく、読みやすい文章となるように、そつなく訳す方が無難でしょう。原文どおりに素直に訳すという基本に戻ってみてください。原文を読んですぐに翻訳に取りかかるのではなく、原文を英語で要約したり言い換えしたりする、あるいは1行ずつ口頭で翻訳してみる (sight translation) など、まず原文内容を理解する練習を採り入れてみてください。