第2位 伊藤泉帆さんへのインタビュー
1. JATコンテストに応募する前の翻訳経歴・経験について教えてください。
2022年から通信教育と独学で翻訳の勉強を始めました。2023年から産業翻訳者として英日翻訳・品質管理・ポストエディットに従事しています。主に、企業の社外・社内向け文書やメール、ウェブサイトの文章などを扱っています。
2. この原文の翻訳作業にどのように取り組みましたか?
まず英文全体を何度か読み、訳に悩む箇所は熟考せず印をつけておいて、全体をざっくりと訳しました。その後で悩んだ箇所を一つひとつ当たり、単語の意味を調べなおしたり、訳の候補を書き出して比較したり、自然な言い回しを調べたりして推敲しました。全体の訳がある程度決まったところで、日本語として不自然な部分がないか、原文と乖離した訳になっていないかなどを確認しました。この推敲と確認を何度か繰り返し、最終的な訳文を完成させました。
3. この翻訳で最も苦労した点はどのようなことでしたか?(一般的、または特定の単語、文、段落など)
“Success breeds its own problems.”は短いながらも抽象的な内容で、この段落の導入文としてふさわしい簡潔な訳はなんだろうかと時間をかけて検討しました。
4. ご自身の翻訳で、特にご満足のいく表現や部分はありますか?
第三段落の“The first shows”を辞書通りの訳(「第一の」など)ではなく、the firstが指す内容を踏まえて「図1.1の~」と訳せた点です。
5. 後から考え直して、訳文の表現や部分を変更したいと思うものはありますか?
冒頭部のWorried about~? Focus on food.が繰り返される箇所は、原文で同じ語が繰り返されている意図を踏まえて訳文でも同じリズムを繰り返す訳にすべきだったと反省しています。
6. コンテストに参加して得た利益(賞金以外)は何ですか(例えば、評判を高める、クライアントに印象を与える、自身の作業方法の変化、翻訳に関する考え方など)?
翻訳の勉強や仕事をするなかでは、自分の訳が他の方からどのような評価を受けるのかわからず不安だったので、今回受賞できたことで自信につながりました。また個人的な話ですが、現在は育児で少し仕事を離れているため、ファイナリストへの講評でご指摘いただいた点をヒントに今後の復職までの期間、いっそうのスキルアップを目指そうと気合が入りました。
7. 将来の翻訳コンテストの参加者に対して、何かアドバイスはありますか?
私は翻訳の勉強を始めたばかりの頃、英単語一つひとつに当てはまる訳語を組み合わせて訳文を作っていたため、ぎこちない日本語になっていました。しかし今は、原文全体や各単語が指している内容を把握して、訳文全体で原文の「文意」を伝えるということが肝心だと考えています。適切に過不足なく文意を伝える訳文というのはなかなか難しいですが、皆様もそのような姿勢で翻訳に臨まれると新しい訳文をひらめくことができるかもしれません。
8. コンテストを楽しめましたか?
はい!じっくりと翻訳に向き合える、とても充実した時間でした。ありがとうございました。
第1位 大橋響さんへのインタビュー
1. JATコンテストに応募する前の翻訳経歴・経験について教えてください。
翻訳会社のチェッカー及び品質管理担当者として勤務して3年になります。そのため、翻訳チェック経験はあるものの、翻訳自体を実務で経験したことは現時点ではありません。
2. この原文の翻訳作業にどのように取り組みましたか?
まず原文に目を通し、翻訳するに当たってどんな知識が必要か確認しました。そのあとはWikipediaの関係ありそうなページをざっくり読んで概要を理解したり、翻訳中、高校生の時に「完新世」という言葉を日本史の授業で習ったのをうっすら思い出したので、教科書を引っ張り出して読んだりもしました。
3. この翻訳で最も苦労した点はどのようなことでしたか?(一般的、または特定の単語、文、段落など)
原文の簡単さとは裏腹に、自然な日本語にするのが全体的に難しかった印象です。読めることと訳せることは全く別のことなのだと、改めて実感しました。
4. ご自身の翻訳で、特にご満足のいく表現や部分はありますか?
appetiteを「食欲」ではなく「需要」と訳せたところです。一瞬「食欲」としそうになったのですが、いくらなんでもそれは直接的過ぎるのでは、と考え直したのが功を奏しました。また、うっかり飛ばしてしまいそうなコロンを「具体的には」と訳文に反映できたのも良かったかなと思います。それらの点は講評でも触れていただき嬉しかったです。
5.後から考え直して、訳文の表現や部分を変更したいと思うものはありますか?
The first shows the estimated biomass of‥のThe first を 「1つめの図」と訳してしまった点です。図は課題文とともに提供されていますし、ましてや定冠詞がついているのですから、図1.1を指していることは今思えば明白でした。もう一歩工夫が必要だったと思っています。
また、内容を正確に理解して表現しようという思いが強すぎたのか、少し冗長な点が多いという指摘もありましたので、より簡潔に表現にできればな、と今振り返ると思います。
6. コンテストに参加して得た利益(賞金以外)は何ですか(例えば、評判を高める、クライアントに印象を与える、自身の作業方法の変化、翻訳に関する考え方など)?
自信が持てるようになったことです。今の仕事では翻訳者の方の訳文を拝見し、今後に活かすためにフィードバックをすることがあります。立場上必要なのでやむを得ないのですが、やはり翻訳経験がない自分がプロの方に指摘していいのか、と後ろめたさのような感情を抱くことがよくありました。
そんな中、今回の受賞によって、翻訳者としての基本的な力を客観的に証明されたような感覚を得ることができました。やる仕事はコンテスト前後で変わりませんが、自信を持って翻訳者の方とやり取りできるようになったことで、精神的に楽になってきたと思います。
7. 将来の翻訳コンテストの参加者に対して、何かアドバイスはありますか?
いかに訳文の内容を正確に理解できるかが鍵になると思います。一見簡単で直訳でも問題なさそうでも、いざ訳してみたら意味が通じない、とか、なんとなく怪しい、と感じることがあるかと思います。そういったときは何かがおかしいので、考えなおすといいかと。私の場合、過去の講評を参考に、少しでも不安になったら「これはどういう意味なんだろう」と自分に投げかけるようにしました。そうすると自ずと理解できていない箇所が浮かび上がるので、おすすめです!
8. コンテストを楽しめましたか?
はい、楽しめました。私は応募しようと決意したのが締め切り1週間前だったので、日中は翻訳チェックの仕事、夜はコンテストの課題、と文字通り翻訳漬けの生活を送ることになったのですが、翻訳に興味がある分、楽しく取り組めたと思います!
原文はこちら
大橋さんと伊藤さんの訳文はこちら(ファイナリスト全員の訳文を掲載してあります)
第22回コンテスト(2024年10月1日~11月15日)はこちら