蔦村的子(法務・金融翻訳者・チェッカー)

 7月21日、東京、渋谷のフォーラム8で開催のJAT東京ミーティング(「eブックは翻訳者のチャンス」、講師は、東京とロンドンに会社を構えるデジタル出版社創設者で、日本eブック界の権威、23年間のeブック出版経験を持つロビン・バートルさん)に参加しました。会場は、小雨のそぼ降る中、大勢の人が詰めかけ、ジュリアンの知的司会で幕が開くと、ロビン先生の熱弁をシーンとして聞いていました。貴重なお話を伺う機会があったことに、感謝いたします。ビデオ中継もされたので、ご覧になった方々もたくさんいらっしゃると思います。
 ロビン先生は、eブック・システムを作り、米・欧・日で活躍しておられます。日本に来るまで数年かかり、その間、翻訳者とも話し合ったそうです。
 eブックの定義とは何でしょう。ロビン先生は”A digital file of text that has been formatted for ease of reading”(読書用に書式設定された文書データの電子ファイル)とおっしゃいました。
 eブックReaderには、Kindle、Kobo Touch、Nook Kindle Fire、Smartphone apps.、Tablet apps.などがあります。
 本を印刷する場合、著者→エージェント→出版社と、著者が前金を払って、編集、コピー編集、生産、出版、国際化などの複雑な手続きを踏み、2年くらいで読者のもとへ届きます。ところが、eブックでは、著者は作品を持ち込み、ロイヤルティを払い、作品がeブック化されると、User LibraryやDRMなどのeブックストアに載せられ、読者のもとに届きます。この間、一週間。すぐに市場に出ます。
 eブックの必要条件といえば、人目を惹きやすいこと、内容が大量であること、信頼に足る作品であることです。
 eブックの発展は目覚ましく、アメリカでは、2007年にKindleが9,000冊のeブックを売りましたが、2012年には、Freed Layoutがeブック1,000,000冊を売却しました。
 アメリカのeブックストアには2012年現在、Amazon、Kobo、iBookなどがあります。Amazonは、印刷の本も扱い、コンピュータシステムを使って、海外、国内を問わず、多額の利益を上げており、一般の出版社と対立しています。
iPhoneなどのeブックは、アメリカではAppleが成功しています。Amazonはその20%がeブック。(この場合、出版社はAmazonで、eブックの値段を決めることができます)ヨーロッパでは、eブックスは、5~15%の売上税を払います。アメリカのAmazonは税金を払っておらず、強いです。アメリカでは、非伝統的な、インディペンデントと呼ばれる出版社がeブックを出版しています。作家個人が直接読者をつかもうと動く場合もあります。昔は、本は本屋で売られていました。デジタル時代の現代では、Amazonにしろ、eブックにしろ、スペースをかけずに売り、その利益ははるかに大きいのです。
 ロビン先生は、日本では、まだ、印刷した本の匂いをかぐことができると言います。物語では、eブックはすでに勝負はついており、出版社が紙をeブックに代えています。イラスト本では、まだ、eブックはあまり進出していない。印刷出版からeブックの大変動が進みつつあり、出版の民主化が進行しつつあることはすばらしいと、ロビン先生はおっしゃいました。本当にそうです。ソーシャルネットワークは本にはなりません。ニッチ市場は、ロマンス、アクティブロマンス、バンパイア物など、独自の発展を遂げています。
 ここで、参加者が、「作家個人はどうやって出版社に連絡をつければよいの?」と質問。ロビン先生は、作家の能力、バックグラウンドなどを記載したリストを用意するよう、勧めておられました。
アメリカでは、小説がKindleで2008年からeブック5,000円を売り、マンガが2003年以来、1,000,000円を売却しています。
日本では、2015年現在、e book japanや「ソク読み」といったeブックストアがあります。Amazonのようなことをする会社は1社もありません。旧出版社もノータッチ。ソニーが新しく乗り出しています。最近、ロビン先生は、The Mikitani Touch(タッチデバイスはRakuten Kobo)の三木谷さん(楽天の社長である)や、講談社の野間さんとお会いになったそうです。この二人は、「打倒アマゾン!」をかかげていたとか。他に政府の出資で、出版デジタル機構という会社も出来ています。
eブック出版には特別な許可はいりません。誰もが出版できます。そして、どんな本も新刊目録に載ります。eブック出版のどの部分も個人的独立性に富んでいます。印刷出版は危機に瀕しており、印刷物はもはや、王者ではないのです。
会場の参加者からの「翻訳家がこっそり訳したら、どうなるの?」との質問には、ロビン先生は「こっそり訳しても翻訳家に権利はない」と答えておられました。
翻訳者は昔、作家→エージェント→出版社→(太平洋を越えて)→国際エージェントが翻訳者に頼む→出版社→本屋という流れで仕事をしていました。eブックの時代、翻訳者が権利保持者に直接アクセスするのは難しいので、そんなときはロビン先生の出版社に頼んでくださいと、おっしゃっていました。
「私も翻訳したい作家がいるが?」との会場の問いには、「翻訳者自身が在庫目録を持つ出版社となり、値をつけ、損失を引き受け、熱心に説明をして、交渉・マーケティングしなさい」とのこと。「今は変革期。翻訳者も出版界の一翼を担える。自信を持って、こそこそするな。」とのロビン先生のお言葉でした。
ロビン先生、ありがとうございました。そして、TACボランティアの方々ありがとう。

エリック・セランドさんによる英語でのレポートもあります。