By: 丸岡英明

4月21日の東京月例セミナーは、Ustreamというサービスを用いて生配信された。私は海外に在住しているため、東京月例セミナーには一度も出席したことがなく、ウェブサイトにアップロードされているビデオのアーカイブでしかセミナーの様子は見たことがないのだが、今回は初めてリアルタイムに東京月例セミナーを体験することができた。

セミナーの内容については会場にいた方から詳細なレポートがあると思われるので、私からは、今回、東京月例セミナー初の試みとして行われたUstream配信という側面から報告したい。

今回は、講師からの提案で、セミナーが生で配信されることとなった。Ustreamでは番組にパスワードをかけることができるため、今回はパスワードをかけ、JAT会員のみが視聴できるという形で試験的に放送が行われた。参加者は、途中多少出入りがあったようであるが、終始ほぼ30人前後で推移していた。のべ人数は不明であるが、会場で参加した55名と合わせ、計100名程度の参加があったのではないかと推定される。開始時間は日本時間の午後2時であったため、米東海岸は深夜、ヨーロッパは早朝ということもあり、海外からの参加は比較的少なかったのかもしれない。実際に誰が視聴していたのかは不明なので、実際に視聴した会員や、視聴したくてもできなかったという会員に、一度アンケートを取ってみてもよいであろう。

配信時の技術的な問題点が懸念されていたが、全体を通して特に大きな問題はなく、順調な配信が行われた。以下、いくつか細かい問題点をあげてみたい。下記の3点については、当日、技術面でお手伝いしてくださったJAT会員、齊藤貴昭(Terry Saito)さんからのお話を参考にさせていただいた。

1つ目は回線スピードの問題である。会場は光ではなくADSLを用いているため、スムーズなUstream配信を行うには帯域がやや狭いという問題があった。Ustream配信では、配信・視聴の環境に合わせて使用する帯域を変更することができるため、「中帯域」を選び放送することが望ましいようである。配信開始時には高帯域で配信したのであるが、放送帯域が不安定になり、サーバーから頻繁に切断されるという問題があった。中帯域に落としてからは配信が安定し、放送が途切れることはなくなった。中帯域設定で放送した場合、カメラでプレゼン資料を撮影した時に、スライドの文字が見辛くなるという問題がある。そのため、スライドはカメラで撮影するのではなく、PCから直接配信することも検討すべきである。

2つ目の問題は、音声がこもって聞こえるということである。スピーカーの音声をカメラマイクで拾っているため、音声がこもっていて聞き取り辛いという意見があった。できれば、スピーカーシステムの外部出力をPCへ入力するのが理想的である。

3つ目は、カメラのオートフォーカスが頻繁に動いて見辛いという問題があったことである。これは、今回使用したカメラがオートフォーカスタイプであり、頻繁にピントを合わせる動作が入ることが原因である。これは、単焦点のUSB接続のカメラを使うことによって解決が可能である。

また、ソフト面では、Ustreamのサービスにソーシャルストリームという機能が付随しており、この使用方法がやや複雑であったため多少混乱を招くことにもなったが、会場に来ることのできなかったJAT会員の間で、ささやかな交流の場となったことは確かである。例えば、過去のIJETで知り合った会員との再会、普段はなかなか接点のない遠方の会員との出会いなど、インターネット上であるからこそ実現できるものがあるため、参加者からは今後もこの機能の提供を続けて欲しいという声が出ている。今回はデフォルトでソーシャルストリームという機能が有効になっていたのであるが、このほかにもUstream内のみでのチャット(講演中は止めることも可)、コメントを残すのみなど、様々な設定に切り替えることが可能である。講師の希望に沿った形で、セミナーの進行を妨げない範囲で、ストリーム配信視聴という形で参加しているJAT会員の間の交流に寄与することができる方法を検討していきたい。

今後の課題としては、事前に講師の十分な理解を得ること、運営者に過度の負担がかからないようにすることを考えていかなければならない。放送中にどのようなトラブルが発生するか分からないため、Utream配信専任のオペレータを1名付けた方がいいのではないかというのが現場からの声であった。

JATの定款第3条には、JATは「日本語・英語間の翻訳に関する情報や意見を交換する媒体と機会の提供を通じて、翻訳者の翻訳技能の向上、本職業の地位の向上、本職業への理解の増進をはかることを目的とする」とある。会員間で情報や意見を交換するための新しい媒体として、地方・海外在住者にも新たな機会が広がっていくことは、JAT会員全体にとって大きなメリットがあるのではないであろうか。

また、今後、非会員向けにJATの活動を紹介する無料セミナーを開き、パスワードをかけずにUstream配信して、新規会員の募集活動の一環としてはどうかという意見も数名の参加者から出た。そのほかにも、クライアント向けに、翻訳者の地位の向上、翻訳業への理解の増進をはかることを目的としたセミナーを行い、配信することも可能である。今回の試験的な配信が、今後の活動のさまざまな可能性について議論していくきっかけとなることを願っている。

東京地区活動委員会
丸岡英明
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